第40回医療研究フォーラム(佐賀県)分科会口演発表
<実空間ウイルス量の可視化と感染症伝播防止サービスの開発・多施設展開に向けた実証研究>
新型コロナウイルス感染症の流行に際し、人類が長らく用いてきた感染対策、すなわちマスク着用や距離確保といった行動規制が科学的にどこまで有効であったのかという問いが国内外で突きつけられた。
米国公聴会において当時の感染症対策責任者が、それらの対策根拠が十分ではなかったことを証言した事実は、医療従事者に強い省察をもたらした。
私は医療現場に身を置く者として、空気感染・飛沫感染に対する技術的対抗手段の未熟さを痛感し、未来世代により確かな科学技術を残す必要性を感じ、感染症可視化チーム「雷神の風」を立ち上げた。
本研究は、従来不可能であった“実空間に浮遊するウイルス量の可視化”を、空気清浄機フィルターを利用したウイルス捕捉・PCR解析によって実現し、施設内の感染症対策を定量化する点に特徴を有する。
2023年に山梨大学との共同研究として技術を確立し、プレスリリースを行った。
技術の中核は、電気集塵方式の空気清浄機により空気中ウイルスを効率的に捕獲し、フィルター洗浄液からPCR定量を行う手法である。
これにより、空間内ウイルス量の実測値に基づく「換気環境評価」「感染リスク段階の提示」「行動変容の誘導」が可能となった。
大田病院で実施した実証研究では、病室内のウイルス量変動と患者配置・換気条件の関係を連続的に把握できた。
特に、感染者発生時に補助的空気清浄機を即時追加することで、同室者の二次感染が抑制される事例が複数確認された。
この成果は2024年、日本リハビリテーション医学会秋季学術集会において報告した。
病院や介護施設では、感染者発生時の対応遅れが集団感染の主因となるが、本技術は“空気中ウイルス量”という科学的指標をもとに、迅速かつ具体的な対策を可能にする点で有用である。
次いで「Next Research誌」に掲載の論文では、空間ウイルスモニタリングの技術的特性と臨床応用例を体系化した。
論文では以下の3点が主要な知見として示された。
(1)実空間のウイルス量は、換気回数・部屋形状・人流・発症後経過日数などの複合要因で規定されること
(2)感染濃度のピークは発症者の隔離や空気清浄機追加設置によって迅速に減衰し、行動変容の効果が数値で示されること
(3)従来研究(研究室レベルでのウイルス評価)は高額かつ単回測定であったが、本技術は“日常環境で継続的・低コストの観測”を可能にした点で画期的である。
本事業の社会実装に向け、山梨大学工学部原本教授との共同研究体制のもと、山梨県内への分析センター開設を計画している。
分析センターではPCR分析技術の継承と多施設対応を可能とし、病院・介護施設・保育園・学校等へのサービス展開を行う。
実証内容は、(1)施設へのモニタリングサービス提供、(2)感染発生時の行動指導、(3)導入前後のスタッフ行動変容に関するアンケート調査の実施である。
感染症可視化サービスには明確な市場ニーズが存在する。
医療・介護施設では、集団感染発生時に入院制限や医療停止が生じ、経営的損失が甚大である。
月額または年額契約で、空間ウイルス量モニタリングと感染発生時指導を包括的に提供する本サービスは、損失リスクを低減する有力な方策となる。
また、将来的に実空間ウイルスモニタリングが換気ガイドラインや診療報酬の感染対策加算要件に組み込まれる可能性が高く、普及基盤は拡大すると予測される。
類似技術として下水サーベイランスが挙げられるが、両者は競合せず相補的である。
下水は“地域全体の感染状況”を把握する技術であり、本技術は“施設内部の伝播リスク”を捉える点で異なる。
両者の統合により、感染症対策はより精緻なモデルへ進化することが期待される。
現在、世界には実空間ウイルス量を実測し、臨床現場で継続的に利用できる技術は存在しない。
研究室レベルでは1回40〜50万円の測定であり、普及は不可能であった。
これに対し、雷神の風の技術は月数万円で導入可能であり、世界的にも先駆的である。
将来的には電気集塵式サンプル回収装置の完成により、国際市場への展開も視野に入っている。
感染症対策は、経験的手法から科学的エビデンスに基づく“可視化型マネジメント”へ移行する段階に来ている。
本研究はその基盤を提供し、医療・介護現場の行動変容を促し、将来のパンデミックに備える新たな技術として位置付けられる。
今後、多施設での実証データを蓄積し、感染濃度と感染率の関係解明、最低換気基準の科学的設定など、感染症制御学の発展に寄与していきたい。
東京保険医協会 大田病院 細田悟
2025年11月24日


